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オープンAPIでアップデートする、新しい保険の形|Insurance API organizationイベントレポート
保険

オープンAPIでアップデートする、新しい保険の形|Insurance API organizationイベントレポート

マネーツリー編集部
2020
03
16

金融業界のFinTechに続き、保険業界でも保険×テクノロジーを意味するInsurTech (インシュアテック)が盛り上がりを見せ始めています。

2020年1月16日、日本の保険業界におけるデジタル化を推進するための組織Insurance API organizationの発足および第一回目の会合が東京で開催され、150名以上の参加者を集めました。当イベントは、保険仲介とリスクマネジメントの世界的なリーディングカンパニーの100%出資日本法人であるマーシュジャパン株式会社、新鋭インシュアテックの株式会社hokan、保険販売事業、ソリューション事業、システム事業を手掛ける株式会社アイリックコーポレーションが共同で開催したもの。

保険のデジタルサービスについてご相談したい方はこちらからご連絡お待ちしています。
はじめに、マーシュジャパン株式会社の出口氏が、当イベントやInsurance API organizationの設立趣旨について説明しました。保険業界でのAPIによる利便性や技術的な課題の共有API化の促進や、オープンAPIを視野に入れて、全てのステークホルダーが利益を享受できるような保険エコシステムの形成を目指すと話しました。                 

パネルディスカッション:保険APIがもたらす一般消費者へのインパクト

マネーツリーからは、最高プラットフォーム責任者・共同創業者であるマーク マクダッドが登壇しました。マークと株式会社hokan 代表取締役CEO 尾花政篤氏との対談「保険APIがもたらす一般消費者へのインパクト」の様子をお伝えします。まず、両名から自己紹介およびサービス紹介がありました。                                                                                   

パネリスト紹介

株式会社hokan 代表取締役CEO 尾花政篤

2017年8月創業。「保険業界をアップデートする」というミッションに、InsurTechSaaSを開発。メインサービスは、保険代理店向けクラウドサービスのhokan。将来的にはBtoBtoCで保険アプリの提供を目指す。

マネーツリー株式会社 最高プラットフォーム責任者・共同創業者 マーク マクダッド

2012年日本で創業。個人資産管理サービス「Moneytree」および事業者向け金融プラットフォーム「Moneytree LINK」を提供。お客さまの同意のもと、「Moneytree LINK」に保管されたお客さまの情報を様々なサービスに利用できる仕組みを提供している。                                                                    

お客さまの「保険をまとめて管理したい」を叶える、オープンAPI

尾花氏:保険APIは一般消費者のどのような課題を解決するのでしょうか。保険に関して言えば、まずは「契約の照会」からだと思います。これを求めているお客さまはかなり多いと思うので、APIの解放はぜひ進めていきたいと考えています。

マーク:弊社のアプリMoneytreeでは色々な銀行、クレジットカードなどを登録しているお客さまが多いのですが、「一つのアプリで管理したい」というニーズが多いです。現実世界では、大事な通帳や保険証券は、家の中で別々の場所に保管するのではなく、同じ場所で保管しているはず。それを電子化した世界をお客さまは望んでいます。

また、それらの情報は、家で管理する場合と同じようにお客さま自身が管理するものです。そのため、一つの銀行に委ねるのではなく、我々のような第三者が各種データを整理し、安全に保管することが期待されています。それを実現する際にオープンAPIが必要となってくるのです。

尾花氏:以前、hokanで保険証券画像を買い取り、数千枚の保険証券からデータ分析をおこなったことがあります。その結果、複数の保険会社で契約をしている方が70%強もいらっしゃいました。今、「ほけんの窓口」などの乗合保険代理店があるように、複数の保険会社の保険に入るのは当たり前になってきています。消費者からは、それらを保険のサービス内で、またはMoneytreeのような金融資産管理サービスの中で一括管理したい、というニーズが出てくるはずです。

実際、海外ではそのようなサービスがすでに存在します。ドイツの「wefox」は、アプリが一つの保険の窓口になっています。アプリ上で全ての保険契約を一元で見られて、保険営業の方のサポートが受けられるんです。我々もこのようなサービスを目指しています。

保険の一元管理が保険会社にもたらすメリット/デメリット

マーク:大前提として、先ほど述べたように「まとめて管理したい」というお客さまのニーズに応えるため、保険の一元管理はサービスとして提供しなければいけないと思います。逆に考えれば「Web serviceを提供している一歩先の会社」と印象付ける意味では、保険会社にも大きなメリットがあるのではないでしょうか。色々な情報を更新していくという更新系APIの活用は、保険業界だからこそ面白い部分がありますが、それは次のフェーズの話。銀行もそうでしたが、まずは、保険契約情報などを照会できる参照系APIが先です。

尾花氏:保険会社からは、「オープンAPIで色々な情報を開けていってしまうと乗り換えられてしまうのでないか」との懸念をよく聞きますが、そのあたりはどうなのでしょうか?

マーク:銀行APIの時も誤解されていましたが、「オープンAPI」のオープンとは、誰もがアクセスできる、という意味ではありません。契約者本人(情報の所有者本人)が、直接、保険会社や銀行のサービス上で認証を行い、第三者サービスであるMoneytreeに連携したいと同意したうえで、情報が流れるのです。ある保険会社の情報が他の保険会社や企業に繋がるということではありません。あくまでも、本人が同意することで情報が流れていく仕組みです。

尾花氏:乗り換えの懸念についてはいかがでしょうか。

マーク:契約の期間も違いますし、生損保でもかなり違いはあると思います。特に、生命保険は大きな買い物なので、売った人との関係性も大きく影響すると思います。単なる価格の比較だけで、簡単に乗り換えるような商品ではないでしょう。

どうしてもマイナス面で「乗り換えられてしまうのでは?」と考えてしまいがちですが、例えば、色々なデータを集めて、お客さまとの接点を増やし、接触頻度をあげることでアップセルにつなげられるというプラス面もあります。乗り換えリスクを否定することはできませんが、全体的には、パイは広がるはず。保険APIの導入検討の際、経営層に乗り換えリスクを指摘されたとしても、海外の事例などをあげることで乗り越えられると思います。

保険APIは、保険会社内の業務にも大きなメリットが

マーク:また、オープンAPIは第三者サービスのためのものだと思われがちですが、実際は銀行や保険会社の自社内でもかなり活用できるものです。ホスト系は古いシステムが多いのですが、例えば、システム間を連携した新商品を作ろうとした際に、その上のインターフェース部分に現代のAPI技術を取り入れていれば、より簡単に実現できるのではないかと思います。

尾花氏:保険代理店様とも色々取り組みをさせていただいているので、その観点からお話しすると、「保険会社共同ゲートウェイ」をもっとアップデートしたいとの話が出ています。一番のポイントは、データの更新機能です。現在の共同ゲートウェイは契約データを引っ張って閲覧するだけのもの。それを、例えば住所変更があったときに、各保険会社にアクセスして変更していくのではなく、共同ゲートウェイ上で一括変更し、Moneytreeなどの第三者サービスを通じて、全ての保険会社に連絡が行ったりするなどです。これは、保険会社にとっても、保険代理店、一般消費者にも大きなメリットになると思います。

マーク:更新系になると、運用を効率化してコストダウンにつなげることができますね。ただしそうなると、「第三者サービスから、保険会社の契約情報を動かせるようにするのか」という議論が起こるでしょう。そこは最終的に社内でどのような確認プロセスで実行させるのかは議論する必要がありますが、インターフェースとしては、そうした仕組みがあるべきだと考えています。受付部分をFAXや電話からAPIに変えることで、色々なシステムと面白い組み合わせができるようになります。

更に進んだAPI活用で、保険をアップデートする

尾花氏:現在考えられる保険APIの利用方法は、契約や申し込みが簡単になるといったものが多いのではないかと思いますが、より進んだAPIの活用の仕方があれば教えてください。

マーク:保険業界で「APIを活かす」、というのが非常に大事なポイントです。銀行業界でも、オープンAPI化するときに、「作る」ことによって社内でAPIがどのような技術なのかという知識を得ることが、更に他社のAPIを利用して新しいサービスや商品を提供していくための学習の機会にもなっていると考えています。

保険APIの面白い活用法としては、保険の申し込みに関する部分です。Moneytreeではお客さまの銀行口座の情報を預かっています。Moneytree上でお客さまが認証すると、そのお客さまがその銀行口座を持っていることを保証できるでしょう。他にも、保険加入申込の際、自動引き落としなどの設定を簡易化できるといったアイディアもあります。

尾花氏: Moneytreeでは、資産の情報が全て見える化されるので、保険会社が銀行の資産情報にもアクセスし得る状況になります。その情報も活用していくことで、更にアップセルに繋がっていくのではないかという話もありますよね。

マーク:おっしゃる通りです。

先ほど、「自分たちのデータが他社にも開示されるのではないか」という懸念があるだろうとお話しましたが、それは他社も同様です。最終的にはサービスと商品性が優れている会社が勝つだろうと思います。金融以外の他の市場も、だんだんお客さま自身で比較がしやすくなってきています。比べられることを当たり前のことだと捉えて、その中でどう勝負していくのかを考えるのが重要です。

他業界データへのアクセスこそが、保険APIのキモ

尾花氏:「APIによって何が進化するのか」と話したときに、加入が簡単になるというのは、まだまだ第一歩に過ぎません。そこから更に進化していくためには、他業界、隣接業界のデータにアクセスすることで保険が変わっていくことが重要で、それが保険APIによって目指す未来ではないか、と思います。

もう少し具体的にお話します。例えば、人事データを持っている企業と保険会社が組んだときに、第一段階として、まず保険の加入が簡単になります。要は、申込書に名前を書かなくてもスピーディーに申込が完了するということです。しかし本質的な進化とは、人事システムが持っているデータで保険の内容が変わっていくことではないでしょうか。例えば働き過ぎの人は、ちょっとリスクが高くなるというシミュレーションができるなど。そうすると、オープンAPIによって保険は更にアップデートしていくはずです。

マーク:今のお話に関連して、「情報を集めれば集めるほどリスクは小さくなる」という話があります。今より情報が増えれば、(保険会社がとるリスクに)全然余裕ができるのではないでしょうか。

尾花氏:昨今、よりリスクを細分化していく流れがあります。火災保険でも地域のリスクアナリシスを簡単にできるようにして保険料を変えるものが出てきています。

他にも、チャットで損害保険に入れる「Lemonade」という海外の有名なサービスの例もあります。加入手続きの途中で、「リスクアナリシス分析中」というワークフローが走るのですが、どうやらそこで、築年数や建築耐久性などを分析しているようです。裏側のデータベースに不動産情報が登録されており、その物件のリスク情報に応じて微妙に保険料を変えているそうです。それが平等なのかどうかの議論は一旦置いておきますが、そうした形が保険サービスの進む方向ではないかと思います。

マーク:リスクアナリシスの話になると大掛かりになってきますが、加入の簡易化ができるのは間違いありません。それは収益にも直接貢献してくるので、よい流れだと思います。

一つ、私からのメッセージとして覚えていただきたいことは、保険業界に限らず様々なものが電子化されていく世界の中で、オープンAPIそのものが良いのではなく、お客さまが期待している新しい媒体で、お客さまとコミュニケーションできる手段としてAPI化が必要なのである、ということ。どうAPI化して新しいサービスを作っていくのか、まさしく「アップデートする」のが大事なのです。

今後、保険業界でも自社のデータや他社のデータなど、ビッグデータを利用していかなければならなくなります。その基盤を用意するにあたって必要となるのがオープンAPIです。個人的には、金融庁は銀行業界の次に保険業界に目をつけているのではないかと思います。ぜひ今から保険API公開の準備をはじめていただきたいと思います。

尾花氏:データが爆発的に増え、整備されてくると、それに伴って保険も変わっていかなければなりません。我々はそれをビジョンに掲げていきたいです。夢のあるところにも、業務の効率化といったことにも保険APIを活用していきたいです。  

【INSURANCE API ORGANIZATION について】

日系・外資系生・損保険会社、日本市場に新規参入のINSURTECH企業、首都圏のみならず全国の保険代理店、システム会社などを対象にした組織です。保険業界でのAPIによる利便性や技術的な課題・運営についての理解を深め、組織参加者同士や隣接業界でのAPI接続を模索しています。将来的に、OPEN APIを視野に入れて、全てのステークホルダーとメリットを共有し、新たな保険エコシステムの形成を目指します。
                   

マネーツリーでは、銀行APIのみならず、保険APIのあり方についても一緒に議論していきたいと考えており、2019年にはマネーツリーのゲストを対象に保険のデジタルサービスに関する意識調査も実施しております。保険API公開やデータを活用した保険のデジタルサービスに関するご相談もお待ちしております。

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筆者プロフィール

マネーツリー編集部

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